2000年5月15日 シット・アップ
シット・アップほどメジャーなエクササイズはあるまい。だが、同時にこれほど間違ったやり方でやられているトレーニングも無い。腕立て伏せも誰でも知っているエクササイズであるが、これは間違っている(というより、ズルしている)人の方が多いものの、正しいストリクトなフォームでやる人もたまにいる。ところが、シット・アップは100人いれば100人間違っているといっていいくらいである。
俗に「腹筋」という名称で認識されているシット・アップがなぜこれほどメジャーなのかといえば、疑いもなく学校で教えるからだ。小学校の体育の時間に大抵の人が習うはずである。このとき、間違って教えられる。教える先生も知らないのではないかと思うが、もっとも問題なのはレップス数至上主義である。とにかく何回できるかばかり問題にされる。小学生にとって腹筋が人より優れていること(より正確に言えばシット・アップのレップス数が多いこと)にどれだけの意義があるのか分からないが、とにかく人と較べて回数が劣ってはならない。叱られるのである。なんでやねん?
本来ウェイト・トレーニングはそれぞれのレベルでやるべきものだ。他人と較べてどうこうというのはモチベーションとしてはいいかもしれないが、トレーニングをやる上ではむしろ弊害の方が多いと思う。使用重量やレップス数を追うあまりフォームが崩れることにつながってしまう。それでは自己満足を得るだけに終わってしまうだろう。
使用重量至上主義、レップ数至上主義は手段が目的化している典型的な例である。使用重量やレップス数を比較するなら、自分の過去の記録と比較するべきであって他人と較べるべきものではあるまい。
シット・アップの間違ったやり方の典型例は、@レップの最初と最後で力が抜ける、A体幹と大腿の角度が110度より鈍角にならない、の二つであろう。@の場合はべったりと床(あるいはアブドミナル・ボード)に後頭部までついた状態から始まり、体幹と大腿の角度が90度よりも鋭角になるまで、時には額が膝につくまでがレップになっている。これではレップの中間のほんの少しの時間しか腹直筋にストレスがかからない。だが、これはマシな方だ。よりひどいのがAでこれでは腹直筋にほとんどストレスがかからない。アブドミナル・ボードで時々この手の人を見かけるが、中には雑談しながらしている人までいる。
これらの人たちは「今日は腹筋●回やった」と言って満足して帰る。したがって、彼らにとってはそれで目的は達せられているのだが、残念ながら腹直筋の有効なエクササイズにはなっていない。だが、より問題なのは集団で数を数えながらやる人々がいることだ。それをやると、強いものは強いがゆえにさぼり、弱いものは弱いがゆえに誤魔化して、結局誰にも良い結果を生まない。基礎体力のトレーニングは個々人のレベルに合わせてやるべきだと思う。
今日も日本中で「さあ、腹筋50回、いくぞ!」といって、輪になってシット・アップをした人が五万といるんだろうな。