2001年10月14日 入院(7)
術後1週間はとにかく安静である。といっても、それは右肩に関してのみのことで、翌日から早速テニス・ボール握りと肘の曲げ伸ばしが始まる。手術によって握力が弱り、上腕の筋肉も弱る。一方で、この二つの動作には肩関節は関係しない。たった1日ちょこっと骨削ったからってテニス・ボールなんかと思ったが、2日、3日と続けていくうちに、確かに1日目は握力が大分落ちていたと分った。肘の曲げ伸ばしは、それ自体は問題ないのだが準備に入るときに少し痛かった。三角巾で吊っているので肘は身体の前、肋骨の上あたりにある。そのポジションのままで曲げ伸ばししてもいいのだが、ほれ、どうしてもフル・レンジ・モーションに拘る癖がついているので身体の横に肘を持っていこうとする。そうすると少し肩が動くので痛いのである。ちなみに、寝るときは右肘の下にパットを置き、三角巾を付けたまま寝る。寝相が悪いと動くからであるが、もちろん四六時中首が引っ張られるので、肩が凝ってしまう。整形外科病棟に入院していながら、首にアンメルツを塗るハメになった。
術後4日目ぐらいまで微熱が続いて参った。37度前後だからどうということはないのだが、結局寝てばかりいた。そして、土曜日ベッドから降り立ったとき、眩暈がした。トイレに行くだけでフラフラだ。人間、寝てばかりいると予想外の早さで体力が落ちていくものだ。まだ少し熱があったが、病院内を歩き回ることにした。5階から1階まで階段で下りて、1階の玄関から外来棟の中をぐるぐると歩き回り、また階段を上って5階に戻る。最初は1セット20分から始めて30分に伸ばし、最終的には1日4セットにした。午後に入ると外来患者はほとんど帰ってしまうので、午後に2セット、夕食後に2セット。右手にはテニスボールを握り、ひたすら歩く。魚の目が悪化したのには閉口したが、体力は取り戻したと思い込んでいた。
病院の食事はタンパク質が不足していた。そもそも24時間寝てばかりいる人用だから、総カロリー2,000kcal/日程度である。主治医も足りなかったらなんか他に喰ってくれという。母に頼んで毎日ささみを6本食べていた。それでもまだ足りない。こんなんで傷が治るんかいな、と思うが医者のやることに文句を言うでもないし。それにしてもホタテ責めには冷や汗が出た。ホタテは嫌いなんだな・・・でも貴重なタンパク源だから涙を流しながら食べた。
術後1週間したら、痛くないところまでで少しずつ動かしても良いと言われた。ただし、ムリは絶対にしないように。骨膜に届くぐらいまで削っているので、皮膚や筋肉の傷は癒着しても内部はまだ傷が治っていない。それから、三角筋のアイソメトレックス(腕を真っ直ぐ下ろした状態で肩も腕も固定したまま三角筋に力を入れる)もいい。実際に肩を動かしてみると、もっとも動くのが後方向で、次が前、真横が最も痛い(ただし、前と横はほとんど同じぐらい痛い)。後には動くので寝るとき使っていた肘の下のパットをやめ、寝るときは三角巾をはずして寝ることにした。
リハビリは相変わらずテニスボール握りとバイセップス・カール。これを午前中にやって、午後から夜はウォーキングである。バイセップス・カールはテニスボールや、時には500ccのペットボトルを握ってグリップを変え3方向でそれぞれ20レップスずつ。そのあとベンド・オーバーの姿勢を取り、トライセップス・スロウ・アウェイ。これは奇妙に見えたのか、しきりに何してるんだと聞かれたが、面倒くさいのでリハビリ、リハビリと笑っていた。続いて、ベンド・オーバーの姿勢のままゆっくり恐る恐る肩を動かしてみる。これはもちろん痛い。痛いが、少しずつ動かせる範囲は大きくなっていった。無論、ムリはしない。そして最後が三角筋のアイソメトレックスで、これは別に何の問題もなくやることができた。
退院の日、朝の回診で抜糸して、その後リハビリを習いに行けと言われた。リハビリは一応独立の科になっている。隣のベッドのTさんがまったく同じ手術で私より1週間早かったので、そのあたりの日程は見ていて分っていたし、リハビリがどんなものかも大体分っていた。その前の週Tさんは迎えの妹さんが遅れて、その間習ったリハビリをやっていた。訊いてみると、痛いそうだ。リハビリに行くと、同じリハビリを教えられた。振り子運動である。ベンド・オーバーの姿勢をとり、左手を台などについて上半身を支え、右腕を真っ直ぐ下にたらす。要するにワン・ハンド・ロウイングのスタート・ポジションである。腕を振り回すのだから、左手をつく台と身体の間には十分な空間がなければならないので、手をつく場所は必然的に机の角などに限られてくる。右の三角筋を使わずに身体全体の動きを利用して腕を前後に振り動かす。続いて、同様に左右に振り、それから左回り、右回りに振り回す。回数は30回で、1日に何回やっても良いが、1セットごとに十分なインターバルをあけること。
やってみたら、聞いていたとおり痛い。痛いと言うと、肩を落としてやってみろと言うからやってみたら余計に痛い。それに、上半身を支えている左の上腕三頭筋が疲れる。ハムストリングスもだ。結構汗だくになる。痛みの冷や汗も含めて。だが、リハビリなのだからイタイイタイと逃げていては治らない。とにかくやることだ。
そして、退院した。6月25日だった。かっきり3週間の入院生活だった。