2003年11月24日 学連の人々(16)

   全日本学生選手権の朝、どうやって起きて、何をどうして会場まで行ったのか、まったく思い出せない。他の選手はどうだったか分らないが、私は今年が勝負ではないと思っていたし、東日本で4位なら明らかに優勝候補でもない。気合が抜けていたとは思わないが、さりとて力いっぱい力んでいたわけでもない。
  会場でパンプを終え舞台裏に並ぶと、やたらにコパトーンの匂いがする。誰が使っていたのか私には分らないが、どうやら拭き取らされたようだ。部分賞審査では、唯一通用するかと期待していた背中でも一顧だにされず、こりゃあどうやらダメなようだな、と思いながら予選が終わった。この予選で気の毒だったのは、東北学院大の桜井さんが予選落ちしたことだった。やはり仕上がりが問題になったようだ。
  優勝争いは牧志君と外村さん、杉山さんの3人の争いだった。続いたのは西日本優勝の村嶋さん、2位の岡村さん、4位の村上さん。そこから少し離れて、中山さんと私、京都大学の越本さんと杉本さんといったところ。いずれにしても上位3人が少し抜けていて、7位以下が少し離れているかという印象だった。
  西日本の選手で印象に残ったのが、岡村さんと村上さんだった。牧志君は知っていたし、自分と比較された選手は見れないのだから、そうなるのも当たり前といえば当たり前だが、特に村上さんが強く印象に残っている。
  どの時点で行われたか記憶が定かでないが、選手ミーティングがあった。いつもコンテスト終了後に審査員からの講評があるが、それとは別にミーティングがあったように記憶している(つまり、順位が確定する前だったように記憶している)。やたら狭い会場に椅子を並べて行われたが、牧志君が盛んに冗談を飛ばしていた。意外にノリが軽いので少しビックリした。
  決勝のフリー・ポーズでは意外に声援が多かった。どうやら、東京大学の皆さんが同じ東日本勢ということで応援してくださったようだ。前回も触れたが、曲が曲だったので、応援を入れるポイントがほとんど一つしかなく、応援がぴたりと決まったのは一箇所だけだったが、余計に印象に残った。
  フリー・ポーズが終わると舞台裏で写真撮影があった。こんなことは初めてだった。2ポーズ撮られたが、多分、スプレッドとクラブ・ショットだったと思う。この撮影は月ボのもので、決勝進出者20名すべてが撮影され、全員の写真が88年1月号に掲載されている。
  ポーズダウンの前に恒例の11位〜20位の発表があって、私は呼ばれなかった。東日本のときと違って、これは残れるだろうと思っていたし、この日はとにかく疲れていた。ポーズダウンのころは何かもう空気が抜けているというか、なんであんなに疲れたのだろう。今でも分らないが、とにかく疲れていた。だから、8位でコールされても、何の感慨も浮かばなかった。

Result
優勝  牧志幸治(中部大学)
2位  外村修一(東京大学)
3位  杉山理理(法政大学)
4位  村嶋幸四郎(長崎大学)
5位  村上武司(松山商科大学)
6位  岡村敏明(関西大学)
7位  中山賢一(法政大学)
8位  岩谷知巳(早稲田大学)
9位  杉野伸義(京都大学)
10位  越本武志(京都大学)

  通常、コンテストが終われば会場の外で円陣を組み、選手が挨拶をし、校歌を歌うのだが、自主応援で私を含めて3人しかいないのでそれは無しである。会場を出たところで東京大学の皆さんが集まってらして、口々に「お疲れ様でした」と言ってくださった。応援していただいたこともあり、きちんとお礼すべきであったのだが、元来閉じ篭り方向の私は黙って頭を下げただけだった。礼を失した振る舞いだったと悔やんでいる。
  帰途、会場近くの駅の通路で同行した主将の内川君が、どこかで飲んでいくかと訪ねたが、私は疲れていてとてもそれどころではなかった。そのまま理事の西形君と3人で帰京したが、これもまた、2人に悪いことをしたと悔やんでいる。
  後日、寮(私は県の育英会の寮に住んでいた)にどこでどう調べたのか月ボの記者さんから電話があって、インタビューを受けた。この時のインタビューが掲載されているが、相変わらずの低徊派ぶりである。この時は、これが学生最後の大会になるとは(深層心理ではともかく思っていなかったので、一応来年はチャンピオンを目指すと言ったことになっているし、事実言ったのだと思う。自分の位置がどうあろうと、勝つつもりでやるというのがこの時から変わらぬ私の信念であるから。

  今、こうしてこの時の入賞メンバーを見ると、今も選手としてコンテストに出ているのは私と村上さん(JPC)だけになってしまった。もちろん、ジムを経営している牧志君や、越本さんなどボディビル界で活躍している方はいる。それでも、過ぎ去った時間を感じる。私がすごした時間を、この方々はどう過ごしたのだろう。