2003年2月18日 学連の人々(18)
当時、ニュートリションの情報と言えば、月ボの「私のトレーニングと食事法」や野沢秀雄氏のコラムが専らであった。今とは隔世の感があるが、とにかくたんぱく質の摂取量にプライオリティーが置かれていた。一般的には体重1kgあたり2.2〜2.7gがボディビルダーには適量とされていたように記憶している。それ以上は摂取しても無駄になるとも言われていた。糖質や脂質に関する議論はあまり聞かなかった。摂取タイミングについてはあまり言われていなかったが、トレーニング前後というのが一般的だったように思う。就寝前というのはあまり聞かなかった。
減量期にはたんぱく質摂取量を確保した上で、脂質を0にし、あとは熱量でコントロールする。したがって、たんぱく質以外のカロリーは糖質からとることになる。塩分は、減量初期から忌避する人もいたが、私は直前1週間だけだった。
で、これをどうやって伝えていこうということだが、それ以前に大問題なのが、毎年トレンドが変わることだった。カーボ・ローディングが言われ始めたのもこの頃だし、卵の黄身を捨てるのも私が2年の時に始まって、どこのジムのゴミ箱も黄身だらけになった。ポタシウムの摂取が流行ったのもこの時で、バナナ、グレープフルーツ、さまざまなドライフルーツがその供給源(「へへっ、ぽたっしうむだぜえぃ」と言って見せびらかして輸入物のサプリメントを使っていた人もいたそうだ。あえて誰とは言わないが)。しかも、前年の流行が真っ向から否定されたりするので、どうにもならない。そこで、とにかく食品成分表を買わせることにした。食品成分表は必ず巻末に付録で栄養学の基礎が書いてある。何はともあれ、まず基礎を知ることが大切だ。毎年流布されるのは主にプレ・コンテストの仕上がりのためのテクニックで、それは年々進化するのだからその時々に追ってもらうしかなかった。
ポージングについては、新人戦に出る連中に指導した。自分が出るときは減量で自分がテンパッテルので指導などできないが、この年は円満なる性格を保って指導にあたることが・・・できたことになっている。
やってみると、これが難しい。要はマッスル・コントロールだから、感覚的に自分で掴む必要があり、できないヤツはいつまでもできない。特に肩甲骨のコントロールは難しい。
下からスタンス、重心位置、縦のライン(目線)、ディティールと決めていけば決まる。両足をどの位置に、どう置き、体重を足の裏のどこで支えるか(これは左右でそれぞれ違う)を決める。続いて、重心をどこに落すか決める。重心は骨盤でコントロールするが、骨盤の位置をどこに置き、さらにその位置から重心を前に落すか後に落すか、左に寄せるか右に寄せるかを確定する。確定することで、足の裏の体重を支える部分にしっかりと体重がかかる。続いて縦のラインであるが、これは重心がかかっている点(重心位置から重心のかかるベクトルを伸ばして床に当たる点)と頭の位置を結んだ線で、正面から見てこれがどういう線になるかの想定を決める(これにより、目線も決まる)。最後が、ディティールで、肘の位置とか、拳の位置とか、肩の位置とかである。
例えば、捻りを入れたダブル・バイセップスならば、足は肩幅でつま先が開いたハの字に立つ。体重を支えるのは双方とも拇指球だが、重心が乗るほうの足はべた足で全体やや拇指球寄り程度なのに対して、もう一方はかかとが浮くくらいになる。次に乗るほうの足の膝をやや曲げて体重を乗せる。重心のベクトルは尾てい骨から乗るほうの足のかかとの後あたりに伸びる。それから顔の位置を決める。この時、顔を正面に向け左右の肩を結んだ線が正面から見て水平になるようにすると、正面から見たときの縦のラインが鼻から下に垂直にできる。そうではなくて、重心を乗せた方と反対側、斜め上方を見上げ、肩のラインも重心を乗せた方と反対側を上にして傾けると、正面から見たラインは斜めに形成される。続いて、胸郭を持ち上げ上腕を上げ、肘関節を曲げて完成する。この時重要なのはバイセップスのピークを強調することではなくて、広背筋を広げることだ。
というようなことを、口で言ったり、手で動かしたり、足で蹴飛ばしたり、棒でつついたりしてやる。そうすると、直したときだけできる者と、何をどうやってもできない者がいる。感覚的につかめないとどうにもならないので、あまり直しつづけて自信喪失させてもいかんし、さりとてできてないしで、実に困った。