2003年4月9日 背中のキモ

   次回予告と違う内容になってしまった。なぜなら、ペイントソフトが売ってなかったからである。図解入りにしないと、とても理解してもらえないので、ペイントソフトを買いに行った。ウィンドウズに標準でついてくるMSペイントは使いにくいし、本気でやるならタブレットも必要だ。ところが、売ってない。小学生向けのお絵かきソフトすら見当たらない。流行らないんだなあ。ドローソフトは買ってきたけど、これでトレーニングの絵を描くのはかなりの熟練が要る。無理だ。仕方なく、フリー・ハンドで描いてスキャナ取りすることにして、悪戦苦闘している(ペイントソフトが手に入ったところで、悪戦苦闘は同じだったと思うが)。そんなわけで、作図ができるまで、時間稼ぎをすることにした。

 今後、このページでは主にトレーニング種目について放言する予定である。対象は、トレーニング・オタク、失礼、中上級者と考えているので、初心者はくれぐれもそのまま真似しないように。初心者は、まず教科書的なフォームを覚えることから始めるべきで、中上級者の、ましてやコンテスト・ビルダーの真似をすべきでない。教科書的なフォームとは、「怪我のリスクの最も少ないフォーム」ということである。それに、初心者は直接見てもらったほうがよろしい。億劫がってウェブで情報を漁るより、ちゃんとした指導をしてくれる人を探しなさい

 一般的に言って、背中のトレーニングにとって重要なことは何だろうか?ストレッチ?フル・レンジ・モーション?ネガティブ・ワーク?上腕二頭筋の関与を減らすこと?肩甲骨の動き?これらのことは、無論すべて正しいが、より本質的なことは一瞬の動作にあるように思う。言葉で表現すれば、「一瞬で良いからピーク・コントラクションを得る」ということだろう。これができていないと、背中のトレーニングは無為になってしまう。
 分かりやすく言えば、「フィニッシュ時点で、時間は短くても良いから、肩甲骨が寄ること」となるが、この表現は中上級者にとっては問題のある表現だ。肩甲骨自体は動かせない動かせるのは背筋群である。つまり正確には、「フィニッシュ時点で、時間は短くても良いから、肩甲骨を寄せるように背筋群を動かすこと」になる。肩甲骨が動くのは、背筋群を動かした結果なのである。
 なぜこんなことに拘るかというと、動かしている筋肉=鍛えようとする筋肉に意識を集中することが重要だからだ。ウェイト・トレーニングは、部位を問わず、脳で筋肉をコントロールすることが大切だ。それができて初めて、思い描いたとおりの刺激を筋群に与えることができる。
 背中のトレーニングで言えば、肩甲骨が動いていることが必要なのではなくて、背中の筋群を動かしていることが必要で、その動かし方としては、肩甲骨が動くような動かし方をしなければならない。そして、脳ミソでセットの間中、背中の筋群をコントロールし、同時に背中の筋群からのフィード・バックを受け取って修正していくようにならなければいけない。
 では、なぜ「肩甲骨を動かす」という表現をするのかというと、その方が聞いた人に分かりやすいからに過ぎない。結果として起きる状態を客観的に見て表現し、このような結果が起きるようなフォームでやりなさいということだ。しかし、ウェイト・トレーニングで大切なことは、セットの間中、脳ミソで対象となる筋肉をコントロールしきることなのである。

 岡部充氏制作のIFBBプロ・ビルダーたちのトレーニング・ビデオを見ると、誰もレップ・スピードを意識的にゆっくりはしていない。背中といえばロニー・コールマンであるが、その背中のトレーニングは、背中の筋群が動くのは一瞬に過ぎないと思えるほど、レップ・スピードが速い。
 一方、これはやってみればすぐに分かるが、長い時間(よく言われるように2秒間)ピーク・コントラクションを得るために動作を止めるとすれば、使用重量は劇的に軽くなる。重い重量でそれをやると、動作はピーク・コントラクションを得られるポイントではなく、それを過ぎてから(つまり少し下がってから)しか止めれないはずである。いや、それ以前に、ピーク・コントラクションを得ること(背中で言えば、肩甲骨が寄っているポジションを形成すること)が一瞬たりとも不可能な場合のほうが多い。
 よって、ピーク・コントラクションを得る時間は、一瞬でいいのだと思う。長く得たければ、使用重量を軽くしなければならない。重ければ、動作が止まっているというだけでピーク・コントラクションはそもそも得られていない恐れが大きい。

 ストレッチについても考えてみる必要がある。背中の種目で特にストレッチが重視されるのはプル・ダウンであるが、これもウェイト=重力によって筋肉がストレッチされるようなやり方は誤りだと思う。例えば、ラット・マシン・プル・ダウンで肘関節が完全にロック・アウトし、体が持ち上げられ膝の上のパットでとどまり、腰が浮いているような状態がセットの最中にあるのは誤りだ。これでは、ウェイト・トレーニングのセットの最中に、スタティック・ストレッチが入っている。ストレッチされている間、筋肉は出力していない。休んでいるのと同じだ。
 これは、ストレッチ種目という呼び名と、フル・レンジ・モーションに拘るあまり陥る誤りだろう。ストレッチさせるというのならば、あくまで自分の意思で筋肉をコントロールしてその状態を作るべきだ。ウェイトによって地球に引っ張ってもらったのでは、筋肉は休んでしまう。(ストレッチを自分の意思で筋肉を動かしてやることについては、ワン・ハンド・ロウイングのときに詳しく説明する。また、フル・レンジ・モーションに拘るあまりの失敗は、バイセップス・カールの方が分かりやすいだろう。)

 と、こんな調子なので、初心者は見ても分からないだろうし、真似すると怪我するから、コンテストを意識するようになってから試してね。