2003年6月15日 ワン・レッグ・カーフ・レイズ

大前提
 このシリーズをご覧いただくにあたって、必ず留意していただきたい大前提がある。この大前提は、どれほどしつこいと言われようが、くどいと嫌われようが、毎回冒頭に掲げる。

1 このシリーズで用いる図は、見れば分かるとおり写実的なものでもなければ、解剖学的に正確なもでもない。が、それ以上に重要なことは、あくまで
「実際にトレーニングをしている人の頭の中で思い描かれるべき図」であるということだ。けっして
「客観的に外からみたら、こう見える」という図では
ない。

外から見た図、すなわち、トレーナーにとって必要なことを述べる企画ではなく、実際にトレーニングするトレーニーを念頭に置いた企画である。大切なのは、自分がトレーニングするとき、必ず頭の中に理想のトレーニングがあって、それを身体で実行することだ。

2 私の所属するジムは30坪ほどのスペースに基本的な器具しかないジムである。また、私は肩、右膝、右肘、両手首に故障を抱えている。特に肩は手術歴がある。したがって、ここで展開される論はそういう制約条件の下でのこととご承知おきいただきたい。具体的な制約条件は、そのつど申し上げる。

1 ターゲット
 カーフの発達に問題を抱えている人は多いと思うが、私にとっては唯一の長所である。長所長所と天狗になっていると、いつの間にか取り残されるし、案外そう思っているのは自分だけかもしれない。身体の他のパーツよりは良いというだけで、満足できる状態になっているわけではない。とりわけ、2つあるひふくきん(いかん!漢字が分からんぞ)の筋頭のうち、外側の筋頭が内側の筋頭に負けている。これは私だけでなく、大抵の人がそうだと思う。そこで、この外側の筋頭に刺激を与えることを目的として、片足でカーフ・レイズをするのである。

  では、なぜ片足でやると外側の筋頭に刺激があるのか。図-1はパワー・ラックに台を置いてワン・レッグ・カーフ・レイズをしている図と了解していただきたい(そう見えなくても、そう思ってくれたまえ)。右足をトレーニングしている図であり、右手にダンベルを持ち、左手をパワー・ラックの柱に突いて身体を安定させている。このフォームでは身体が左に倒れていくのは、左手で防いでいる。では、右へ倒れていくのはどこで防ぐ?そう、右足のカーフで防いでいるのである。そのため、身体を安定させようとすれば、必然的に、やや左斜め上に向かって力がかかることになる。だから外側の筋頭に刺激が集中するのだろう。
 よって、大切なのは、左手で柱につかまらないことだ。あくまで、突くものと考えなければならない。つかまってしまうと、右へ倒れるのも左手で制御してしまうことになり、意味がなくなってしまう。

2 動作
 動作は別に難しいことは無いが、難しい(?)。要は、図-1のフォームで踵を上げ下げすればいいのだが、これが想像以上にふらつくのである。矛盾するように感じるかもしれないが、ふらつかせるために片足にしているのだが、ふらつきすぎるとまったくトレーニングにならない。ふらつく姿勢をとりながら、ふらつかずに行うのが正しいやり方だ。つまり、ふらつかないようにすることによって、外側の筋頭が強く稼動されるのである。
 想像以上に負荷の強い種目である証拠に、重いダンベルを使用することができない。私は両足でやるカーフ・レイズはマシンに240kgのウェイトを積んでも14レップスできるが、ワン・レッグ・カーフ・レイズは20kgのダンベルを持つと、ストリクトにできるのは6レップス程度になる。

  ふらつかないようにするための工夫として、足の台の外に出る部分を小さくするといい(図-2)。フル・レンジ・モーションに拘るあまり、最大限のストレッチを得ようとして大きく台の外に足を落とすと、セットの途中でバランスを崩して台から落ちることになる。この種目では、ストレッチに関しては、台の外に出す部分を小さくし、その限りでできるだけストレッチすればいいと思う。その代わり、コントラクトは1レップ、1レップ、しっかりと確実に行う必要がある
 レップス数は、基本的には多いほうが良いのだと思う。15〜25レップス程度か。ただし、重い重量で6レップス程度でも効くので、一概にそうとも言えないかもしれない。
 チーティングは危険なので使わないほうが良いが、限界に近づくと完全にコントラクトできなくなる。そこであきらめずにがんばると、一度スティフィング・ポイントで止まっても、そこからまたあがるときがある。あがらないときは、膝を曲げてやる(膝を入れる)と完全にコントラクトできる。もちろん、これはチーティングであって、こうすると加重が大腿に逃げるが、そうやってでも完全にコントラクトすることが重要である。「完全にコントラクトさせること」こそが、カーフのトレーニングのキモである。

3 効果
 セットの最中にも外側の筋頭に刺激があるのが分かるといえば分かるが、体感的には「両足のカーフ・レイズよりもはるかにきついなあ」という感覚の方が強いので、分からないかもしれない。しかし、セットを終了し、ダンベルをラックに戻すためにダンベルラックに歩いていくとき、はっきりと外側の筋頭に疲労を感じることができる。

4 「ことば」で表す
 「鍛える方の足と同じ側の手にダンベルを持ち、反対の手を柱に突いて、台の上に立つ。踵だけを台から落とす感じで、あまり深くストレッチさせることを考えない。まずは身体を安定させてからセットに入る。身体がふらつかないように、鍛えるほうの足で制御しながらレップを重ねる。
 大切なのは完全にコントラクトさせること。苦しくなってスティフィング・ポイントで止まっても、粘ってコントラクトを得よう。それでもダメなら、膝を入れてチーティングしても良いから、コントラクトさせよう。ストレッチの方は、フォームを保つ限りにおいて、できる限りでよい。
 カーフに集中するために、ストラップは必須だ。」

5 その他のことども
 私は「フル・レンジ・モーションで行うのが最良である」という命題に反対しているのではない。その通りだと思う。しかし、それに拘るあまり、いたずらにトレーニングを難しくするのはどうか思う。できればできるのに越したことはないが、その種目の目的を達成することに力を注ぐ方が良いと思う。
 よく雑誌などでカーフのトレーニング記事を読むと、「フル・レンジでやっていないのが問題だ」として「完全にストレッチさせること」と書いてある。私は、ことスタンディング・カーフ・レイズついては(片足だろうと両足だろうと)、ストレッチさせていないことが問題なのではなくて、完全にコントラクトさせないことが問題なのだと思う。スタンディング・ポジション行うカーフ・レイズでは、あるポイントよりも下に踵を下げると(完全にストレッチさせると)、負荷がカーフから大腿や体幹に逃げてしまう。ストレッチを得たいのであれば、45度レッグ・プレス・マシンを使ってトゥ・レイズをやるか、ドンキー・カーフ・レイズをやれば良いと思う。スタンディング・ポジションでは、むしろコントラクトさせることに心を砕くべきだ。上にも書いたように、苦しくなってくるとスティフィング・ポジションで止まってしまうが、ここで下ろしてしまうと、効果が半減する。チーティングは危険を伴うので勧めないが、スティフィング・ポジションで止まったところから数秒間粘ってコントラクトさせてみるといい。ぜんぜん違う効果が得られること請け合いである。
 カーフのトレーニングはハイ・レップスで行うほうが良いと思う。また、もうご存知のことと思うが、踵を内に向けたり外に向けたりするのは、危険なだけで意味はないので、ご注意を。