2004年12月17日 ウェイト・トレーニングの発展段階(2)

  さて、第3段階、中級はといえば、セットの最中にターゲットとする筋肉にストレスがかかっているか分かるようになる段階である。最中に分かるから、セットの途中で修正を加えながらトレーニングするようになる。セットの途中で修正を加えること自体は初級の人でもやっている。顕著なのが、スクワットのしゃがみの深さである。深さを修正しながら(大抵の場合はだんだん深くしていって、探っていく)セットを進めていき、セットが終わって、最初のうち浅かったとか、3レップス目からはフルになっただとか、考えている。
 しかし、それだけでは中級と言えない。中級と言うからには、筋肉にかかるストレスを情報に修正を加えていくのでなければならない。上記のスクワットの修正の場合だと、膝と尻の位置を情報に修正しているのであって、筋肉にかかるストレスについては大腿四頭筋もハムストリングスも眼中にない。
 いつから中級になるかという点については、その人次第としか言いようがない。いつまでも初級の段階にとどまる人もいれば、案外に早く中級にたどり着く人もいるだろう。1つ言えるのは、明確な目的意識、問題意識を持たない限りなれないということだ。自分のトレーニングはこれで良いのだろうか、もっと効果のあるやり方があるのではないか、自分はベテランのつもりになっているが本当は根本的なところでとんでもない間違いをしているのではないか、そういう意識を持たない人は中級にはなれない。
 中級の上は、いよいよ上級であるが、ここに厄介な問題がある。この世には天才というものがいる。この天才というのは、今私がしているようにクドクドと理屈をこねることなく真理に至ることができる。そして、大抵の場合、その真理を言葉で表現することができない。ウェイト・トレーニングにおいても天才がいる、と私は確信している。経験を経ずとも、知識を授からずとも、上級の境地に達してしまう人たちだ。悔しいことに、私はウェイト・トレーニングの天才ではない。
 では、上級とはどういうことか。これまでの私の記述を見ていただきたい。すべて、「トレーニングの効果を判断する」になっている。つまり、「トレーニングをしたから筋肉が疲労する。その疲労をできうる限り早く、ついにはリアルタイムで知り、その情報に基づいてトレーニングを修正することができるようになるのがトレーニーの上達なのだ」、と。だが、この考え方では中級までにしかなれない。なぜなら、そもそも順番が逆だからだ。筋肉が疲労するのは収縮弛緩した結果であるが、トレーニングという作業をしたから筋肉が収縮弛緩するのではない。筋肉が収縮弛緩したからトレーニングという作業ができるのだ。
 カールを例に取ろう。カールという動作をしたから上腕二頭筋が収縮弛緩し、上腕二頭筋が疲労するのではない。上腕二頭筋が収縮弛緩したからカールという動作ができ、上腕二頭筋が疲労するのだ。バーベルを上げることは目的ではなく、結果に過ぎない。大切なのは上腕二頭筋を意識的に収縮弛緩させることであって、上腕二頭筋が結果として収縮弛緩することではない。バーベルを上げることに拘っているうちは、中級から上に上がれない。
 これは当たり前のことだが、実は逆転している人が多いはずだ。人間は言葉でしか物事を理解できないが、筋肉が収縮弛緩することは、言葉で伝えようがない。「上腕二頭筋を大きくしたかったら、バーベルを使って上腕二頭筋を収縮弛緩すればいい」と言われても、やり様がないだろう。だから、「バーベルをアンダー・グリップで握り、大腿の前にかまえ、肘を固定して肘から先だけを動かして、上に巻き上げる」と説明する。だが、その動作は上腕二頭筋が収縮弛緩するから起きるのであって、その動作をするから上腕二頭筋が収縮弛緩するのではない。
 神経が筋肉から拾ってくる情報だけを頼りに、修正を加えていく。ターゲットとしている筋肉が収縮弛緩することでウェイトが上下している、という感覚を掴むこと。これが、上級者になるということだと思う。今度はスクワットを例に取ろう。ラックからはずしたとき、バーベルの重さをどこで感じる?僧坊筋のはずだ。担ぎ方を間違えていない限り、僧坊筋にバーと重量を感じる。だが、下がってステップを固めたときには、もうバーの感覚は消失している。バーは安定して僧坊筋の上にあり、重量は大腿四頭筋で感じる。1レップ目を開始してからは、大腿四頭筋とハムストリングスの感覚がすべてになる。大腿の筋群が重量を扱っているか、使用している重量が最大限に筋群にストレスをかけているか、利用しうる限りのストレスを利用しているか。大腿の感覚がすべてであって、しゃがみの深さは結果に過ぎない。
 今の私のレベル?私は中級にとどまって、上級につま先がかかったり、外れたりしている。ターゲットとしている筋肉でウェイトを扱っているという感覚が無い部位が多く、それがある部位でも漫然としてその感覚を逃したままトレーニングしていることがよくある。1日のトレーニングで1セットあれば良い方、というレベルですから。残念!