2000年2月2日
ヨーカドー銀行の脅威
今日のはかなり専門的、金融に興味の無い人はごめんなさいネ。
イトーヨーカドー・グループが銀行業務に進出し、決済専門銀行をつくる計画である。これは既存の銀行にとって怖い、実に怖い。特に地方銀行は。
いまから7〜8年前、バンクPOSというのがあったのをご存知だろうか。小売店や飲食店の店頭に専用カードリーダーと端末機を置いて、銀行のキャッシュカードで買い物ができるようにするサービスである。ものの見事に失敗したのであるが、形態から言うと今盛んに実験が行われているデヴィッド・カードと同じである(少なくとも消費者から見れば大差ないサービスである)。当時は時期尚早、あるいは日本人は現金決済を好みアメリカのようなカード社会にはならない、などと総括されたものである。しかし、失敗の真の原因は別のところにあったのだと、私は思う。
バンクPOSが失敗したのは、消費者にとって魅力的な新しい付加価値を提示できなかったからである。顧客である消費者が見向きもしないものを、小売店や飲食店が導入するはずはない。これは単に銀行の発想から出てきたものに過ぎなかったのだ。銀行は手数料を取って決済を請け負う立場だから、決済というものはできればアウトソーシングしたい厄介なコスト押し上げ要因以外の何物でもない、という発想から一歩も出ようとしない。それは、実は銀行にとってもそうなのだ。決済業務は銀行にほとんど利益をもたらさないため、できればやめてしまいたいというのが本音である。
だが、今イトーヨーカドー・グループがこれをやるならば、別の結果が出る。彼らは決済に新しい魅力的な付加価値を提示できるのだ。カギは物流網とECである。彼らは流通業だから本業の収益を成就するためには必ず決済が必要である。今まで消費者相手の決済は現金で行うか、クレジット・カードがほとんであった。そのため、必ずといっていいほど銀行が介在したのだが、このギンコウという奴はいつまでたっても高コスト体質を改めることができない。もし、彼らが自分たちがやったらもっと低コストでできると確信しているなら、それが銀行業に乗り出す消極的な理由である。彼らの青写真はおそらく顧客のすべてにイトーヨーカドー銀行のデヴィッド・カードを持たせて、すべてのレジから現金をなくすことだろう。現金というものが消滅すれば、決済にかかるコストは劇的に減少する。さらには、コンビニなどではレジの店員すら不用になるだろう。
それでは積極的な理由はといえば、物流網とECと決済を組み合わせた千貨店・万貨店の構築である。イトーヨーカドー・グループといえども消費者の求めるすべての品揃えを満足することはできない。そこでECの登場である。特殊な顧客の要求はWEBサイトで購入してもらい、商品の受け取りは最寄のセブン・イレブンで、決済はイトーヨーカドー銀行のデヴィッド・カードでという寸法である。これは絶対に既存の銀行にはできない。物流網が無いからである。一方、物流業者にもできない。24時間営業の店舗網が無いからである。
これを消費者の方から見るならば、イトーヨーカドー銀行に口座を持って、デビッド・カードを持つならば、日常の買い物はイトーヨーカドー・グループの店舗でキャッシュレスででき、特殊な買い物はWEBでして、受け取りは自分の都合のいい時間にセブン・イレブンで、決済はイトーヨーカドー銀行のデビッド・カードでできる。その上、既存の銀行(ほか金融機関)がやっていた公共料金や税金、クレジット・カードの引き落としもイトーヨーカドー銀行の口座から自動振替でできる。あなたは既存の銀行とイトーヨーカドー銀行とどちらを選びますか?
ある地方銀行の頭取は新聞に、イトーヨーカドー銀行が決済業務に特化するのは喜ばしい、なぜなら我々は決済業務を減らしたいと思っているからだ、とコメントしていた。イトーヨーカドーの関係者はこのコメントを見てほくそ笑んだことだろう。