2001年1月24日 汝、依らしむべからず
なんだか、ずれた会話を聞いた。もっとも、毎日のように聞くのだが。
地方でダメになった事業をM&Aによって他人に譲渡することで延命を図る、そんな「すき〜む」とやらを作るのだそうだ。行政主導である。どうやら後継者もいないような商店街の店を対象にしているらしい。それを潰れる前に意欲のある人に、しかも秘密裏に譲渡しようということらしい。事業が完全に見込みが無い場合、せめて店舗を貸して空き店舗にはしないようにするのだそうだ。
この話は多大な矛盾を含んでいる。まず、既に事業がダメになっている企業を買収する場合、その事業を別のやり方でやれば成功させることができるとか、同業他社で店舗網の拡大を狙っているとか、事業以外に何かしら魅力的な資産(のれん、顧客、その他現在の経営者が気が付いていないもの、気が付いていてもどうにもできないものも含む)がある場合などである。この「すき〜む」とやらが対象とするような企業にそれがあるか?なければそもそもM&Aの対象になんかならない。地方の商店街で後継者もいないということは、身内も見放したということでないのか。
貸し店舗としてテナントを募ると言うのなら簡単だ。そんな「すき〜む」など不要。まず廃業すればいいではないか。貸し店舗云々はその後の話だ。地方では一度閉店してしまうと評判が落ちるから、などと言っていたが要らざる心配だ。どうせ廃業するのだ。
資産と言う点では大概問題外だ。この場合の資産は経営者の個人資産や企業の流動資産ではなく、あくまで企業が有している有形無形の事業基盤である。現在の経営者が事業継続の意欲を喪失している、あるいは、後継者たるべき子が後継を忌避しているということは、もはや見るべき資産が無いうえに債務超過の可能性が高い。そうだとすればBMWがローバーを10ポンドで売却したように、代金は10円でいいから誰か借金ごと買い取ってくれということになる。そんなもの誰も買わない。
商店街の振興は結構だが、空き店舗ができると困るから誰かこの店買ってぇ〜、では話にならない。商店街として顧客を呼ぶ方策を考える方が先で、誰か流行る店を出してくれさえすれば・・・などという他力本願ではお先も足元も真っ暗である。
第一、それよりも何よりも、既に民間でそれを業とする人々が存在する。むしろ問題なのは、その対象となる潰れそうな企業(実質破綻状態がほとんど)の経営者の意識なのだ。
こうした考え方(行政が「すき〜む」をつくって地元の人々を税金、ではなく借金して甘やかす)の根底には行政の「依らしむべし」の思想と民間の甘えがある。行政はとにかく頼りにされたいと思っている。民間に「行政なんて邪魔なだけ」と思われるのが怖いのである。その先に見えてくるのは「小さな政府」であり、行政がこれを恐れるのは当たり前だ。己の raison d’etre が減少することであり、長年にわたって安住してきた思想が木っ端微塵に打ち砕かれることなのだから。そうした行政の心理を悪用する輩もたくさんいる。かくて財政は火の車を通り越してメルトダウンした核融合炉と化すのである。
ビジネスの世界はすべてをかけた戦いなのだ。負ければ死ぬ。ごく当たり前の論理で成立している。誰が見てもダメなものに魅力など無いし、魅力の無い投資に金を出す人はいない。その店がダメになるのは、要するに経営者が悪いのである。そんなものを救うための「すき〜む」など不要。産業政策は「依らしむべし」ではダメなのだ。いつまでたっても補助金頼みの産業しかなくなってしまう。このところ「知らしむべからず」は徐々に打ち破られてきている。行政の側でも「知らしむべし」の方が結果がいいことにやがて気づくだろう。むしろ、急いで改めるべきは「依らしむべし」→「依らしむべからず」の転換であると思う。