2004年10月11日 ブレードランナー

  久しぶりに映画「ブレード・ランナー」を観た。ディレクターズカット版のDVDを中古で手に入れたのである。配給元のワーナーに版権が無いとのことなので、復刻版が出ることもしばらくあるまい。当面は中古でしか手に入らない。
 この映画を初めて観たのは17歳の頃、多分10月か11月だったと思う。公開当初はあまり売れずに、長く時間をかけて売れたというか、支持を得たというかで、カルト・ムービーの代表と言われたものである。私が観たのは秋田の映画館で、ロードショーではなく、なんと「燃えよドラゴン」と併映だった。実は、私は「燃えよドラゴン」を観に行ったのである。このときまで私は「燃えよドラゴン」を通して観たことが無かった。したがって、カンフー映画といえばむしろジャッキー・チェンの初期作の印象が強く、つまりは清朝末期の設定のもの、という先入観が出来上がっていた。それにしても、「燃えよドラゴン」ほどの有名な映画を観たことがないというのもどうかと思っていたところに、上映があるという。それで、観に行くことにした。日曜日に1人で行ったと記憶している。
 よって、「ブレードランナー」についてはまったく何の知識も持っておらず、当然にして何の思い入れも無かった。映画を観に行くときはその方が良いのかもしれない。期待していくとだいたいオオハズシするものである。どちらを先に観たかは記憶が無い。観終わった後に強烈に印象に残ったのは「ブレードランナー」の方だった。「燃えよドラゴン」は予備知識が豊富だった分だけ、思ったとおりという印象だったのだろう。
 この「ブレードランナー」によって、私はリドリー・スコットという監督と、シド・ミードという工業デザイナー、バンゲリスという音楽家、P.K.ディックというSF作家、そしてルトガー・ハウアーという俳優、ショーン・ヤングという女優を知った。その後現在に至るまでリドリー・スコット、P.K.ディック、ルトガー・ハウアーのファンである。また、以後観る映画を選ぶとき監督で選ぶという悪い癖がついた。
 今、見直してみて、劇場公開版で批判の標的になったデッカード(主役、演じたのはハリソン・フォード)の独白(全編にわたって説明的に繰り返される)は、あれはあれで正義があるのだと分かった。一度も観たことが無い人に、デッカードの独白の無いディレクターズカット版を観せたら、まったく意味が分からず、強引なストーリーのB級SFと思うだろう。劇場公開版を観たことのある人ならば、ディレクターズカット版の方が良いと言うに違いないが、いきなりこれではほとんど意味が分からない。劇場公開版ラストのポールとポーラのラングレーのCMみたいなシーンは、映像としては美しい限りだが、これも確かに蛇足である、と両方見て初めて納得できる。
 画面の暗いSF映画といえば、リドリー・スコットが元祖かというほどだが、以後に作られた同様に画面の暗い近未来SFのどれもが、「ブレードランナー」に映像の面で負けている。いたずらに暗いだけではないし、怖がらせるためにしているわけでもない。すべてはコントラストのためなのだ。映像として美しいことが重要なのだ。その点で勝てる作品がほとんど見当たらない。これこそリドリー・スコットの真骨頂なのだ。
 もう1つ演出で見事だと思ったのは、レプリカント(有機的に合成して作られるアンドロイド)たちがすべて同じ違和感を醸し出していることだ。全部で5人出てくるが(もちろん5人の俳優が演じている)、そのいずれもが同じ種類の「人間ではない違和感」を醸し出している。この5人はそれぞれ違う個性を付与されて製造された設定であり、劇中でも違う性格を持っているものとして描かれているが、そのどれもが同じ種類の違和感を発散するのである。
 ルトガー・ハウアーは「仕事を選ばない男」と揶揄されるほど出演作が玉石混交であるが、独特の存在感があり、使いこなせない監督が使うと酷いことになる役者だと思う。「ブレードランナー」、「ナイトホークス」、「ヒッチャー」などで有名になったこともあって、名悪役のイメージだが、一癖ある善玉の役も似合っている。最高傑作をと言われれば「サルート・オブ・ザ・ジャガー」だと思う。これまた近未来SFと言うヤツだが、それは単に設定に過ぎず、内容的にはスポ根モノである。文明が一部を残して滅んだ地球で、人々はジャガーと呼ばれる競技者が犬の頭骸骨を奪い合う競技を唯一の娯楽として楽しんでいる、と言う設定である。全身防具で固めた1チーム5人が、ランナーと呼ばれる頭骸骨を奪い合う1人を除いて武器(鉄パイプに釘を打ち付けた棒、タイヤにつけるチェーンなどという物騒なもの)を持って本気で殴りあうので、試合が終わればジャガーは血まみれである。これもDVDが出ているらしいが、アマゾンでも4〜6週間かかるというから、大分前に出て在庫があればあるというものだろう。
 それにしても、初めて「ブレードランナー」を観てからもう20年も経つなんてなあ。不思議な感じがするよ。精神的にはあまり進歩してないのに、肉体的には衰えを自覚するようになったもんな。